イノベーション オブ リバティー -Innovation of Liberty- (IOL)

らいふぁいやによる、創作作品「イノベーション オブ リバティー」の小説を載せるページ。

IOL序章 「『最強』の名の下に」

「情けねぇよ…クソッ――」

 一枚の写真を眺め、「最強」を手にした少年は嘆く。

 彼は確かに「最強」だ。

 しかし、彼には「世界一の力」は何一つ無かった。

 何においても「世界で二番手」だった。

 何もかも二番手であるが故に、彼は「最強」の名を手にした。

 誰もが彼の天才性と能力を羨んだ。

 それでも少年は、「相対的最強」と呼ばれる自分を恥じた。

 そうして、「最強」の名を欲しいままにした………わけでもない少年は、その自ら憎いと思った力を振るった。

 

 

 ―――国の為に―――。

 

 

 ―――仲間の為に―――。

 

 

 ―――もうこの世にはいない、母親の為に―――。

 

 

 目の前で深紅の血に染まった、その母親の為に己の「最強」の力を振るい、振るったが故に、彼はたった一つ残った大事なものさえも失い、失った少年は――――。

 

 

 後悔した。

 

 

 今でも鮮明に思い出す。あの日の出来事を。

 

 

 

 それは、桜が散って間もない春先のことだった。少年は反抗期真っ只中のはずだが、大してひどく荒れるようなことはなかった。

「母さん 一応母さんは王妃なんだから もうあんな無茶はやめてくれよ?」

「あはは、ごめんね」

 少年の心配する中、母親は暖かい微笑みを浮かべた。

「でも、ライフがこんなに強くてお母さん助かったわ~」

「あんな命を狙われるような会談を、なんで親父は母さんに押し付けたんだ」

「いいのよ ほらっ! 今日だってこうして帰ってこれたじゃない!」

「けど、こんなことやってたらいくつ命があったって足りねぇよ」

「そうね でもライフ君が守ってくれるじゃない」

「まだ三二だろ母さん こんな一一のガキに守られてて恥ずかしくないのか?」

「あら失礼しちゃう! まだ三一よ! 明日まではね」

「どっちにしろもう三十路はとっくに過ぎてるよ」

「そうね~ 見た目的にはまだ二二っていってもイケると思うんだけどね~ この年になってみるとやっぱり体がね~」

「もう三二なんだから少しは体に気をつけろよ?」

「だから! まだ三一なの!」

 親子の他愛のない会話と笑い声が響く。

「おっ 兄貴だ 何してるんだろ?」

「ライルー!ご飯にしましょう!」

 こう声をかければ、いつもなら反応を示してすぐに身を翻して家の中に入るはず。

 だがしかし、この日は何か様子が違った。少年の背筋に、途轍もない寒気が走る。

「ッ…!」

 そこに立つ一つの異様な殺気は、握っていた拳銃を自らの母親に向けた。

「隠れろ! 母さん!」

 ――いや違う…!狙いは俺だ!――

 そう思った時には既に遅かった。放たれる弾丸。瞬間的に詰められる距離。どう計算を練っても確実に頭に当たる。

 命を諦めたその瞬間だった。

「っあっ!」

 目の前に飛散する紅の聖水。力なく倒れようとする母親の身体。刹那とも呼ぶべきこの瞬間を、少年の目には永遠に感じた。

 そして、その永遠を彷徨った少年は、全てを失う覚悟を決めて腰の剣を抜き放った。

 

 

 

 

 

「いってぇな…畜生」

 眼帯の奥の右目が、若干唸っているような感覚に襲われた。あの日以来、眼帯からその覚悟の代償を、風呂以外で見せていない。

「もうそろそろか…行きますか」

 六年たった今も、彼はその後悔を抱え、重い足を学校へと向ける……。